㉒悩みの効用

悩むことの効用

 

大脳皮質の前頭葉の右側の一部が破壊されると、「悩み」が消えてしまうという障害があります。

 

ここで「悩み」の構造を考えてみましょう。

 

悩みとは未来を予測することから生まれます。未来の予測は経験に基づいて計算されます。そこには2つの要素が必要です。一つは「過去の記憶がある」こと、もう一つは「未来を想像できる」ことです。この2つがあって初めて未来を予測することができます。過去の記憶や経験、知識を構成し、想像できることによって、未来予測ができます。

 

未来予測ができるからこそ、逆にうまくいかなかったらどうしよう、という不安がうまれてくるわけです[1]

 

計画を立てたり、決定を下したりする脳部位が「前頭葉」です。そこが部分的に障害を受けると、その人が悩みが消えてしまうのです。

 

悩みが消えてしまうと聞くと、「悩まないなんていいな」とうらやましく思うかもしれませんが、悲惨な面もあります。本人は悩んでいないので確かにその限りでは幸せと言えるかもしれませんが、社会に適応しながら生活することができません。

 

悩まないことによって記憶力も低下します。記憶というのは未来の自分のためにあります。未来への計画性、想像性が無い人にとっては記憶は不要なのです。何も悩まないことから生まれる単純な明るさと、悩んだ末に生まれる前向きな明るさは、違うのです。

 

このように考えると「不安」があることによって、人間は色々なものを生み出してきたことが分かります。不安があることによって衣服や家、そしてあらゆるものを創造してきました。前頭葉が人間だけに発達した脳部位であることからも、不安と創造性は切っても切れないものだということが分かります。



[1]脳は何かと p264